禁断症状が出にくい減薬法

 

 これは減断薬のクリニックにかかる前に、夫と考案して行っていた方法です。これだ と面白いように、苦しまずに、お金もかからず減薬ができました。他の薬剤に置き換え る必要もなく画期的なのではないかと思います。

 

 

 前述したように、1度失敗した後は慎重に漸減していたのですが、やはり量が減るにつれ怒りなどの禁断症状が出て来てしまいました。この時は一般的な処方に従い朝晩2回ずつ薬を飲ませていたのですが、減薬が進むにつれて量が減った分、当然、半減期も 短くなっていたのでした。そうなると朝と晩の間で薬がもたなくなり、その間に禁断症 状が出やすいことがわかりました。これは大発見でした!そのことに気が付いた夫が、 飲み方を変えたらどうかと提案してくれました。

 そこで、朝晩2回のほかに、ピルカッターで薬を細かく砕いてピルケースに入れ、間の時間にもチョビチョビ、口に入れることにしました。すると脳がいつでも薬がもらえ ると思って安心するのか、減らされていることに気づかないのか、禁断症状も出なくな ったのです。まんまと脳を騙す事に成功した訳です。この半減期をなくすやり方だと、 面白いように脳を騙せてしまうので、私としてはお勧めです。(騙すと言う言い方はよ くなかったです。「なるべく脳を驚かせないようにした」ということです。)

 

 ですから半減期の長いメイラックスに置き換える必要もありません。今飲んでいる薬 のままで大丈夫なんです。きちんと1日分を飲み忘れさえしなければ、普通の生活も大 丈夫です。不眠も食欲不振も殆ど出ませんでした。但し、様子を見ながら16分の1ず つ、2週間ないし3,4週間単位で減薬することは厳守しました。忘れないように、薬 の分量と娘の様子を大学ノートに記録していました。

 

 急がば回れで、チョビチョビ減らしているつもりでも、確実に減薬が進められるので、達成感も感じられるようになり、自信や喜びが湧いてきます。本当に、少しずつチョビ チョビでもいいではありませんか。減薬しながら普段通りの生活が出来れば、それでもう十分だと思います。今まで散々、薬で辛い思いをしてきたのですから、これ以上自分の体を苦しめないであげてください。自分の体に「今までずっと頑張ってきてくれて ありがとう。これからは楽しみながらやるから安心してね。どんどん良くなって、どん どん元気になるから安心してね。」と話しかけてみてください。喜んで減薬に協力してくれると思います。辛さや苦しみはもう十分です。それでもまだ、大声を出したり誰かを殴ったり、物を投げたりしたいですか。家族やご近所に迷惑をかけてでも、急いで断薬したいですか。そうやって自分の体も心も痛めつけたいですか。てんかんを起こして細胞 を傷つけたいですか。其の暁に後遺症が出るかもしれないのに、一気抜きしたいですか。 この場合、耐えることは、「立派」でも「美徳」でも「修練」でも何でもないと思います。ましてや娘の様にひどい後遺症が残ってしまったら、「社会復帰が遅れる」どころの話ではなくなります。

 

 そもそもそんなに苦しくて後遺症も心配なら、減断薬なんてやりたいと思わないのが普通です。苦しいから途中で断念してしまうのであって、苦痛でなければ誰だって最後まで やり遂げたいと思うはずです。ですから「楽しく減薬する」ということが断薬を成功さ せる一番大事なポイントだと思います。減薬は無理したり、一生懸命やらない方がいい のだと思います。むしろそうすべきだと思います。それで後遺症も出なければ、万々歳 なのではないでしょうか。

 

 但し、この方法だと禁断症状が出にくい分、大目に減らすことも可能なので、つい欲 が出て沢山減らしたくなるかもしれません。でもそれだけは絶対にやめて下さい。実は、医師のハイペースな減薬指示でも娘がなんとか断薬出来てしまったのは、この方法を使 ったからでした。しかし断薬は出来たとしても、その後に必ずや生き地獄が待っています。

 

 なぜならば急な減断薬をすると、断薬後はいきなり薬がゼロになるわけですから、それ以降、一切脳を騙すことができなくなります。すると脳は「今までよくも騙したな」 とばかり、恨み骨髄、暴れ始めます。減薬の最後の方では、より慎重を要し、ごく微量 ずつ減らす必要があるのはこのためです。断薬後は全くゼロになるわけですから、十分な軟着陸を心掛けることが肝要だと思います。最後の最後まで優しさで脳をいたわって あげてください。今までどんなに薬まみれになっても、脳は必死に耐えてきてくれまし た。それがどんなに大変で、苦しいことだったか。それなのに、また減薬においても力 任せの乱暴なやり方で、脳を苦しめたいですか。そんなことをして何が楽しいですか。 ただ脳を傷つけるだけです。とにかく優しくいたわってあげてください。そうすれば脳にも体にもその思いが伝わって、きっとあなたを支え応えてくれると思います。自分を 「甘やかす」と言うのとは全く訳が違うと思います。

 

 

 一方「脳梗塞のリハビリと同様に厳しさも大事だ」と言う考え方もあるようですが、 この点については、親戚の内科医から次のような話をききました。

 

 

 「この場合の「厳しさ」を履き違えてはいけません。脳梗塞におけるリハビリの厳しさとは、許容範囲ぎりぎりか、若しくは少し負荷となる程度で訓練を行うことです。決して極 端な過重をかけるわけではありません。あくまでも脳梗塞の身体の状態を見ながら慎重に 実施されます。全く自分で動けない人にいきなり「歩け」と言っても無理なことです。てんかんを起こしている状態でも、脳梗塞の場合と同様に無理をしたり、サウナに頑張って入っても、全くの逆効果だと思います。減薬中の脳は神経が弱く脆くなっています。其の脳に対して強すぎるストレスを与えることは、後遺症のリスクを高めるだけです。」 

 

 私どもの場合、最後のほうで、ベンゾ系のソラナックス0.2mg (1錠の半分) を1ヵ月でゼロにするよう指導されました。2週間単位で16分の1ずつ減らすと約8か月かかるところをです。特にソラナックスで自傷行為や自殺念慮が出ていた訳ではないので 「早過ぎると思うのですが」と医師にいったところ、「ダラダラ減らすとその状態に依存する。」と言われました。でも 今から考えれば「依存」と「てんかん発作」のどちらを取るかと言えば、まだ依存の方が良かったと思います。依存がどう生活に悪影響するのかよくわかりませんが、詰まるところ日常生活が普通に送れれば、それで十分だったと思うからです。

 

 

 (自己流で減らしていた時ソラナックスは、てきめんに易怒性を高めるので私の一番苦手な薬でした。飲むときはとても楽なのに、減らすのは本当に時間がかかりました。 でもそれさえ分かっていれば、自傷行為は出なかったので、そう怖がる相手ではないと 思います。絶対に慌てず、ゆっくりのんびり減らせば楽勝だと思います。)

 

 

悲劇は私たち母娘でもう十分です。「よほど体力に自信のある方は別にして」などと 例外も言いません。結果が分からない事に大事な脳を賭けたりしないで下さい。脳には、人生の大事な思い出が沢山詰まっています。体の全てを動かしている司令塔です。人を愛する気持ち、美しいものに感動する心、学びたいと思う意欲も、みな脳のおかげです。 そんな大事なものを自分から破壊してどうするのでしょう。この世でたった1つしかないあなただけの脳なのですから、本当に本当に大事になさってください。

 

 

 繰り返しますが「禁断症状に耐えることで精神力がつく」などという発想はもうよし た方がいいと思います。そんなハイリスクな野望は抱かないでください。そういうこと は、てんかんの恐ろしさを知らない人が言うことです。たとえそうやって成功した人が いたとしても、それはその人がたまたま体質的に恵まれていたからにすぎません。特にてんかん器質のある発達障害の人は脳が傷つき易いので、根性論では済まされなくなり ます。

 

 但し、てんかん器質の人は、炭酸リチウムなど、「てんかん禁忌」(てんかん器質の人

は絶対にのんではいけない)の薬剤は、体調を見極めながら早めに減らしたほうがいかもしれません。この薬は、娘にとってごく微量でも激しい聴覚過敏引き起こす悪魔のような薬でした。其のためにほぼ丸3年間外出できなくなったほどでした。炭酸リチウムがてんかんに「禁忌」であることは「医薬品添付文書」で調べて初めて知りました。医師任せにせず自分でもきちんと調べるべきでした。あとは自傷行為や自殺念慮が出ている薬があるならば、それを優先してごくごく微量ずつでも減らしたほうが安心安全かと思います。