実家の母の体験談

 

  先日実家に行ったときに、母がベンゾジアゼピン系(以後ベンゾ系)睡眠薬のハルシオンを飲んでいることに気がつきました。寝室の枕元の小皿に載せられていたのです。母は元々とても心配性で少しのことでも、あれこれ考えて眠れなくなるようで、呼吸器内科で薬を処方して貰い、すでに半年間以上服用していることが分かりました。1錠では眠れなくなり増量もしていました。母に「ハルシオンはベンゾ系薬で、このまま飲んでいると耐性が出来て効かなくなるし(註1)、昼間でもふらついて転倒する危険性があるから飲むの、やめた方がいいわよ。もう歳なんだから眠れなくなって当然だし。眠たくなければ起きて好きなことやっていればいいんだし。反対に眠くなったら、いつ寝たっていい訳だし。もう何をしても自由なんだから。」などと話し、慎重に16分の1ずつ減薬する方法を伝えました。しかし急に薬が恐ろしくなったのか、また自分なら大丈夫だろうと過信したのか、勝手にどんどん減らしてしまったようなのです。私もそうでしたから、その気持ちも痛いほどよく分かります。でもプライドの高い母は、どの位減らしたのか絶対に教えてくれません。ところが案の定、禁断症状で苦しみ出したのです。心臓の動悸が激しくなって呼吸困難になり、鋭い痛みが腰を襲い動けなくなってしまったのです。弱々しく情けない、死にそうな声で電話をかけてきたので、それは「心臓が弱った為」でも「骨が折れた為」でもなく、ベンゾの禁断症状であると説明しました。すぐに一端元の量に戻させると、すぐに症状が消えて事なきを得ました。今は素直に16分の1ずつ、私のやり方を守って減らしています。86歳の腰の曲がった小さな婆さんながら、気丈でよく働く母に戻りました。

 

 

  またこれも母の話なのですが、去年、圧迫骨折で腰痛に苦しんだ折に、帯状疱疹も併発してしまいました。あまりの痛さに耐えかねて大学病院の麻酔科を受診しました。そこで疼痛治療薬のリリカカプセルと言う薬が出されることになり、食事を挟んで約5時間にわたり、タブレット端末による質問事項や問診に答えることになりました。帯状疱疹と圧迫骨折のひどい痛みを抱えた老婆が、車椅子に座らされたまま長時間かけて回答する必要があったのかどうか。またリリカについて「医薬品添付文書」で調べてみると、めまいによる転倒リスクや記憶・注意力障害発症の可能性が高いことが分かり、絶対に服用しないように話しました。母も一度は服用してみたものの、洗面所で顔を洗おうと下を向いただけで頭がクラクラし、1歩も歩けないほど強いめまいが出たため、すぐに服用を止めたそうです。帯状疱疹のほうは、発症後すぐに近くの病院で抗ウイルス薬の注射を打っていたので、痛みは治まりました。リリカを処方した医師の話では、少量から始めて漸増するとのことでしたが、少量でもめまいはひどかったそうです。治療と信じて、あのままリリカを飲み続けていたら、めまいで転倒骨折し、寝たきりになってしまっていたかもしれません。大学病院での質問事項は、服用後にどの位、認知力が下がるのか治験を取るためのものだったのでしょうか。よく意図がわかりませんでしたが、とにかく母には合いませんでした。飲み続けなくて本当に良かったです。

 

 どちらの例も、幸いリスクを回避することが出来ました。今まで沢山、手痛い失敗をしてきたので、こんな私でも少しは役に立てたのでしょうか。母も身をもって薬の怖さを経験し、孫娘の辛さが実感できたようで「本当に薬は怖いわね」としみじみ話しておりました。