ベンゾ系のワイパックスを飲んでいる、育児中の母親について

 

 それからもう一つ、ベンゾ系薬についての話をさせてください。 (汗)

                          しつこいようでしたら飛ばしてください。

 

  平成28年1月放送の NHK スペシャル「ママたちが非常事態」を観ていて、驚いたことがありました。産後うつになった母親が精神科で、ベンゾ系抗不安薬のワイパックスを処方されていたのです。しかも番組中、ベンゾ系薬の危険性については何も注意がありませんでした。

 母親たちが育児中に強い不安や孤独を感じやすいのは、出産後にエストロゲンというホルモンが激減するためだそうです。(註2) こうした一時的なホルモンの影響に対して、安易にベンゾ系薬を処方して良いのでしょうか。番組を観ていて、これはとても大変なことだと思いました。

 

 心配なのは、その母親がその後どうなってしまうのか、ということです。ホルモンが安定してきたころに、急にベンゾ系薬の服用を止めたり、減らしてしまったら必ずや激しい禁断症状に襲われます。その時、幼い子供はどうなってしまうのでしょうか。母親の暴力や暴言、錯乱にたちまち巻き込まれてしまいます。知識がなければ、母親本人も周りも、薬の禁断症状だとは気が付かず、「精神状態が悪化した」と考えるだろうと思います。また脳の器質によっては幻聴が出る場合もあり、そうなれば「待っていました」とばかりに統合失調症と診断され、向精神薬も処方されます。処方された薬の作用で、ますます幻聴やうつ状態がひどくなれば外出も出来なくなります。そうなれば子供の心身の発達も歪み、命の危険さえ危ぶまれます。夫婦関係も悪化し離婚に至る場合もあり、子供の貧困にもつながりかねません。どんどん負の連鎖が起こります。子供にとってこれ以上の悲劇はありません。

 禁断症状もさることながら、ベンゾ系薬の恐ろしさは、飲み続けていると、だんだんと 効果がなくなり、たとえ量を増やしたとしても、いずれまた効かなくなってしまうことです。(註1)いつの間にか、どんどん薬が増えていくことの恐ろしさに気が付いて、「薬を止めたい」と思っても、すぐには止められません。急に減らした時に起こる悲劇は、世の人々の想像をはるかに超えています。

 

 

 これと同様のことが、企業のストレスチェックでも言えるのではないでしょうか。不安や心配を訴えた場合、精神科や心療内科の受診を勧められ、精神病薬が処方されることも多いいと思います。しかし末路が先述のようになれば、働き手の大黒 柱を失い、家族に途方もないダメージを与えます。ストレスチェックが職場環境の改 善のために利用されるのならばいいのですが・・・。労働人口が減少している現状で は尚更 のこと、労働者の心身の健康はとても大事です。またその妻や子供も共倒れしないよ うに、極力、薬に頼らなくてもいい方法を考え選択されることをお祈りし ます。

 

 (註2)        NHK    『ママたちが非常事態』番組の一部要約

 

 「エストロゲンは妊娠中に胎児を育むために使われるが、出産後は激減する。エストロゲンの減少によって母親は孤独や不安を感じるようになるが、体はそれによって、母親に周囲との共同養育を促しているのではないかと考えられる。チンパンジーは5年間、子育てにかかりきりになり、その間、次の子を産むことができない。一方人類は毎年子供を産める体へと進化し、たくさんの子孫を残すことで繁栄することができた。共同養育がそれを可能にしたのである。人類700万年の進化の過程の中で、その本態が体に刻み込まれてきたにも拘わらず、いま日本では核家族が8割を占め、共同養育とは程遠い状態になっている。急速な核家族化が母親たちを支えてきた環境を崩壊させてしまった。つまり体の状態と環境との大きな溝が母親たちを孤独や不安にさせている。ママ友とつながろうとする強い衝動はその表れであり、日本だけに見られるものである。」

 

 

  以前、娘が通院していた精神科の待合室で、幼な子を連れた母親と一緒になったことがありました。声をかけると「子供に落ち着きがなく、心配でたまらない。」と涙を流しました。子供は、と見ると、乳母車にちゃんと座って、辺りを見回しては時々母親や私の顔を見て、とてもご機嫌そうにしています。私はこのお子さんは全く心配ないと判断しました。好奇心で目が輝き、母親のことも信頼しているのが見て取れたからです。私は母親に「お子さんは全然心配ないと思います。落ち着きがないのではなくて、非常に活発で、頭のいいお子さんだと思います。一目見ただけで分かります。学校に入ったら、成績のよいお子さんになると思います。全然心配ないと思います。」と率直な感想を述べました。すると母親は「本当ですか。そんなことを言ってもらえたのは初めてです。すごく嬉しいです、ありがとうございます。」と言って、本当に嬉しそうに安堵の表情を浮かべました。今まで周りにいる誰一人として、この母親に、こういう事を言ってあげてこなかったのでしょうか。核家族世帯で孤独な子育てをしているのでしょうか。一体、精神科の先生は何をされているのでしょう。こんなにまで母親を心配させて・・・。

 

 

 精神科にかかると、直ぐに薬が処方されて、病気でない人まで病気にされてしまうような気がします。「取り敢えず精神科で見て貰うことにするよ。」とか「一度精神科で見て貰ったらどうかしら。」というのは、まず殆どの場合「取り敢えず」や「一度」で終わらないと思います。

 特に精神科を勧める人が学校の保健室の先生だったり、信頼するお医者さまだったりすると、こちらは何の疑いもなく, 精神科の先生方のことも信用します。言われるがまま、処方されるまま、回復を一途に信じて、有り難く薬を飲み始めます。しかし一旦薬を飲み始めたら最後、治癒からはどんどん遠ざかっていき、殆どのケースで向精神薬の服用がほぼ永続的に続く状態になるのではないでしょうか。

 

註1)   抗てんかん薬についてなのですが、ベンゾ系薬の「耐性」について、非常に分かり易い説明

           が ありましたので是非ご参照ください。

 

 「ベンゾジアゼビン系の薬剤は、ジアゼパム,クロナゼパム、二トラゼパム、ロラゼパム、などの「ゼパム」と言う語尾のついたものがそれです。これらの薬は脳の神経細胞の膜にあるベンゾジアゼピン・レセプターという名前の鍵穴にはまり込んで神経細胞の興奮を抑える作用があります。この特定の鍵穴は無数にあるのですが、いったん薬が全部の鍵穴にはまりこんでしまうと、もうそれ以上は神経細胞の興奮を抑える作用はなくなってしまいます。こうなってしまうことを、この薬に対する「慣れ」が生じた、といいます。ですからこの薬剤は、飲み初めはとても切れ味のよい効き目を感じますが、数週間も経つとまたジワリと発作が出始めます。そしてまた薬を少し増やすとまたしばらく発作は治まります。こういうことを繰り返し、ついには薬をそれ以上増やせなくなっても発作はまた顔を出してきます。」

                                                    『知られざる万人の病 てんかん』金澤 治著 南山堂 P185