てんかんの前兆について

 

 前述した通り、娘は減薬を急ぎ過ぎた時に、悪魔的な性格に豹変してしまいましたが、実はこれもてんかんの前兆でした。

 

 娘は今まで大好きで慕っていた人たちに、「物凄い腹黒」「ねじ曲がった根性」 「えこひいき」「自己中心的」「気位が高い」「陰湿」「心が卑しい」「許せない、殺してやる」などの言葉を書き連ねては 日に何度もメールするようになってしまいました。皆さんご自分の時間を割いてでも、娘のためにいつも優しくして下さっていた方たちでした。今から7年ほど前、まだ外出が出来た頃、度々銀座の楽器店やケーキ屋さんなどに連れ出して下さったり、娘の好きそうな話題を選んでは話相手になって下さったり、交換日記をして下さったり、減薬中に娘が失踪したときには、歩いて何時間も娘を探し続けて下さりもしました。つい吹き出したくなるような楽しいメールを沢山送って下さる方もいました。思い出すだけでも涙が出るほど優しく、精神性も高い方々で、友達のいない淋しい娘の支えになって下さいました。いつか幻聴が取れて自由に外出ができるようになったら、それぞれの方に会いに行くのを、それはそれは楽しみにしていました。けれども減薬を開始してから急に娘の性格が変わってしまい、上のような悪魔的文章を書き送るようになってしまったのです。以前はとても甘えん坊の「べた子さん」(いつも母親にべったりくっついて甘えているので、夫がつけたあだ名)だったのに、母親にも全く近寄ってこなくなりました。後日、専門書を読んで、これらもてんかんの前兆だったことが分かりました。(註1) 一旦薬を元に戻した時、これらの症状は消え、自分から謝りの手紙を書いて出していました。皆さん理解のある方たちでしたが、少なからず不快で不可解な思いをされたことと思います。私からも事情を説明しお詫びしました。

 

 こうした症状も、減薬に無理が生じている貴重なサインになると思います。

てんかんの前兆症状なので、けして見逃さず、症状が出なくなるまで一旦薬を元に戻し、 ゆっくり減薬されることをお勧め致します。

 

 

 註1)「前兆としての不安・恐怖と扁桃核」 『てんかん学ハンドブック』P234

                        兼本浩祐 著 医学書院より

 

「てんかんの前兆としての不安・恐怖(ictal fear)がAura Continua の状態になると

精神病的な症状が出現することがあるのは、古くから指摘されてきた。こうした不安・恐怖は、扁桃核由来と考えられている。扁桃核は、未知の対象を既知の対象から弁別し、警戒と言う強い情動でそれを刻印することで、動物が未知の物から身を守ってきた発達的に古い機能を司っている。扁桃核が Aura Continua という形で過剰に機能すると、周りの世界のあらゆるものがこれまで見たことがないような未知のものとして目に映り、親しい友人や家族もいつもの慣れ親しんだ雰囲気とは全く異なった恐ろしい雰囲気を醸し出し、敵意に満ちた対象として立ち現われてくることがある。」

 

                     Aura Continua  =  持続性前兆