減断薬の様子

 暫くは食欲不振のためガリガリに痩せ細り、骨と皮だけになってしまいました。 無理にでもご飯と飲み物を一日に2口程度、口に入れていましたが、便通にも支障が出始めました。水分不足と運動不足で何日も便秘が続いたため、便が固くなり握りこぶし大の塊になってしまったのです。痛がって泣き叫び、自力で排泄出来なってしまってしまい、母親の手で掻き出してやっていました。食欲は半年ぐらいで徐々 に回復していきました。しかし最初のうちは咀嚼力が弱って固形物が食べられず、 全てミキサーにかけて流動食から始めました。今は固い牛蒡でもよく噛んで食べら れるようになりました。不眠は治まりましたが、相変わらず殆ど1日中うつ伏せの まま横になっています易怒性や不安感が強く、独語はあっても対話はできません。 自分から何かをする意欲も殆どありません。低気圧、生理、暑さなどあらゆることに過敏になりました。不安や恐れも強く、たまの外出時、信号待ちの時に目の前を 大きなバスが通っただけで驚き、ブルブルッと体を震わせます。

 幻聴を聴いているようで、最初はブツブツ言いながら、その声に抗議しているよ うなのですが、次第に怒りが昂じてくると「何よー」と大声で叫びながら、壁をどんどん叩き始めます。深夜でも2時間近く続くことがあり、仕方なく紐で手足を縛 り、タオルで口を塞ごうとするのですが、すぐに外してしまいます。「(近隣の)皆 さんもう寝ていらっしゃる時間だから、お願いだから静かにしてね」と懇願しつつ、 手で口を塞ぐのですが全く言うことをききません。そうなると段々こちらも、娘に憑りついた悪魔を成敗しているような感覚に囚われ始め、コップの水を顔にかけたり、布団の上に投げ飛ばしたり、お尻を叩いたりして、何とか正気に戻そうと必死になります。こうした格闘の末、漸く静かになるのですが、しかしそれは双方共に ぐったり疲れ果てた末にそうなるだけのことであって、症状の本体は何も変わらな いままです。むしろそうした「格闘・興奮状態」が更に脳にダメージを与えてしま ったことに後から漸く気がつきました。娘の騒ぎについては、近隣に菓子折りを持って詫びて回りました。かなり響いていたようですが皆さんご理解下さり助かりま した。

  また注射など痛みが伴うものや、歯磨きなどを嫌がり、手で払いのけたり、殴っ たり蹴飛ばしたり、大声で泣き叫ぶなどパニック状態になりました。うつ伏せにな ったまま、どうやっても歯を磨かせない日々が続いたため、ひどい歯周炎を起こし て歯茎が下がり、そこが皆茶色い虫歯になってしまいました。まともな歯は一本も ありません。漸く少し外出が出来るようになってから、近くの歯科医に連れていっ たのですが、麻酔注射やレントゲン撮影などは怖がって全く出来ません。かと言っ てこのまま放置すれば顎の骨が溶けてしまう恐れがあるため、大学病院で全身麻酔 をかけて治療をすることになりました。しかし手術前の予備検査を嫌がり、手術が 可能かどうかも危ぶまれます。また放心したような表情で失禁することも多く、時 間ごとに呼びかけてトイレに行かせようとするのですが嫌がってなかなか行きたが りません。介護施設で働く方が夜間、認知症のお年寄りを1人で抱え、心身共に疲 れ果て大きなストレスを抱える気持ちがとてもよく分かります。でも高齢者ならば、 ご家族はもちろん大変であられましょうが「もう歳だし、認知症なのだから仕方な い」と、多少は諦めがつくかと思います。でもまだ20代で認知症状態になってし まった娘に対しては、なかなかそうは思えず、辛くてたまらない気持がしばしば怒 涛のように押し寄せてきます。

 結局、失禁した敷き布団とマットは2組、捨てました。布団の奥まで染みこんだ 尿は、何度押し洗いし絞っても、なかなか匂いまでは取れなかったからです。水分を含んだ布団は重く、これだけでも汗びっしょりでへとへとになり、ひどく滅入り ました。こんな無駄な労力は精神的にも良くないと思い、仮眠用などに使う半分の 幅の、洗濯機でも洗える敷きマットと布団をネットで購入しました。それを長さ2. 5mのビニール製のテーブルクロス2枚で包んで防水状態にしました。夏場はいい のですが、それだけだとやはりヒンヤリして冷たいので、その上から厚めのシーツ をかけました。シーツが剥がれやすいので、100円ショップで買った幅の広いゴ ムバンド 2 本をそれぞれ輪にして、シーツを掛けた敷布団の上下に通して押さえに しました。こうしておけば剥がれず、また失禁してもシーツだけ洗濯すれば済むの で随分と楽になりました。

  しかしこのまま一日中、お日様にも当たらず、寝たきりでは骨粗鬆や認知症が進 行するので、何とか起き上がらせて外に連れ出すようにしていました。涼しい時期 にはまだ出られたのですが、真夏の猛暑日は易怒性が強まり外出できなくなりまし た。今年は異常な猛暑が長く続いた為、寝たきりになり認知症状態が加速してしまいました。また低気圧の蒸し暑い日なども突発的に気分が変わり易く、散歩途中で 入ったカフェでは大声を出してコップを床に投げつけ、周りを凍りつかせたことも ありました。以前とは全く別人になってしまった娘を見るのはとても辛いことです。 減断薬でこんなにまで悪化するとはまさか夢にも思いませんでした。こんなことなら減断薬をしないほうが遥かにましでした。(こんな状態が一体いつまで続くのだろ うか)と考えるだけで後悔と絶望感、娘への申し訳なさで一杯になり、自責の念で頭がおかしくなりそうです。娘が錯乱するたびに、正直娘を連れて死んでしまいた いと思うこともありました。そうすれば娘も苦しみから解放されますし、生まれ変 わって人生をリセットできれば、(今度こそ失敗しないで生きられるのに)、などと 履き違えた願望で気持ちを奮いたたせたりもしていました。本当に愚かでどうしよ うもない母親です。私などより娘の方が、もっともっとずっと苦しんでいるのですから、(こんなことで負けてはいけない、何とかして娘を良くしてやりたい。昔の娘 を取り戻したい。)と思い直し、気持ちをつないでいる毎日です。しかしながら、一 体どうすることが最善なのか分からないまま悩み、もがき続ける毎日です。