脆弱性がついてしまったこと

 この場合の脆弱性とは、[少しの変化にも過敏になり、てんかん発作が起きやすくなる]ということです。こうした耐性がない、抵抗力がない、打たれ弱い状態になることを、「逆耐性(または脆弱性)がつく」といいます。娘は台風、梅雨時の低気圧、高温、月経 など、断薬前までは何でもなかったことに、一つ一つ過敏に反応するようになってしまいました。ちょっとしたことでも怒りや不安、興奮のタネになり精神症状が出るため、普通の生活が著しく難しくなってしまいました。あんなに大好きだったお風呂も38度で5分間が限界です。少しでも長湯をすると、たちまち怒り出します。外出も旅行も公共施設の利用も殆ど無理です。 娘の突然の錯乱状態に備え、常に私もビクビク警戒して生活するようになりました。 

 

 

 (因みに、娘は向精神薬を服用してからも、ずっと「自分は緊張体質だ。自分から友達に話しかけたいけれど緊張してできない。」と悩んでいました。今から思えば、向精神薬で起き続けた、てんかん発作由来の脆弱性が関係していたと思われます。)

 

このように急速な減断薬は、脆弱性も作り出してしまう恐ろしい行為です。減断薬の危険性はここに極まると言っても過言ではありません。つまり脳がもろく過敏になり、普通の人なら何でもないような事までも、不安や恐怖を感じて出来なくなってし まうのです。すなわち「生活の質が著しく低下する」ということです。

 

  脆弱になってしまう原因を考える際、キンドリング効果(現象)というのが分かり易い理論だとおもいます。別名「燃え上がり」効果とも言われます。これは、ごく弱い電 気刺激で、何回も繰り返し同じ神経細胞を刺激していると、何日かしてその弱い電気刺 激でも、あるいは電気刺激が全くなくても、自然にてんかん発作が起きるようになる、 というものです。金澤治先生の本には、キンドリングとは「燃え上がる」と言う意味で 「火打ち石を何度もカチカチと打っていると、そのうちパット火がついて燃え上がって くる現象に例えてつけられた効果名である」とあります。(註3)

 そして「長い間発作が繰り返し起こると、頭の中で電気ショートの道筋がどんどん開拓され、次々と発作が簡単に広がり易く起こり易くなってしまう。」(註4)ともあります。

 

 

 更に発作を抑制しようとする場合、発症して間もない時期と発症後長期間発作が繰り 返されていた後とでは、発症早期の方がより簡単に発作を抑制しやすいと言われていま す。これは繰り返される発作自身によるキンドリング現象から、たたみかけて徐々に発 作が、より起こり易くなると言う理屈が考えられます。発作の回路が脳に焼き付き染み つくと言う考え方でも理解できるかもしれません。」(註5)と書かれてあります。

 

 恐ろしいことに、「発作のある生活が長く続けば続くほど、キンドリング効果によっ て、ますます発作の経路が確立し、拡大していくことは充分に分かっています。 脳の中での、発作焦点が周囲の脳組織の働きも徐々に損ねてしまう」(註6) とあります。

 

 要はてんかん発作を放置しておくと、「刺激に弱い、発作が起こりやすい脳になり、 脳の細胞自体も損なう」ということだと思います。早期発見、早期対応が大切なことが お分かり頂けると思います。

繰り返しますが、てんかん発作は泡を吹いて倒れたりするような大きなものばかりで はありません。「幻覚や易怒性、言語障害、興奮不安、恐怖、脆弱性」などもてんかん 発作で現われます。これらは「心の病い」などではなく、脳内で電気ショートが起きた ために現われるものです。到底、精神力や根性でのりきれるものではありません。我慢 しているとキンドリングが進んでしまいやがては娘のように、あらゆることに過敏にな り、普通の生活が送れなくなってしまいます。ですから異変に気がついたら、すぐに引き返し、無理をきたさないやり方で減薬をやり直すことが一番大事だったのです。早け れば早いほど後遺症にならずに済むからです。

 

 

 思うに、一度脳を傷つけ苦しませると、その苦しみの記憶が、後々までずっと残って しまうように思います。例えば、きちんと麻酔手術で腕などを切断した場合は大丈夫で も、交通事故などで激しく損傷した場合などは、失ったはずの腕があたかも存在するか のように、痛みがずっと続くと聞いたことがあります。このように痛みや苦しみの神経 は、一端出来上がってしまうとなかなか消えないのではないでしょうか。だからこそ、 そうならないように減断薬も慎重に行わなければならないのだと思います。

 

 

註3 註5    『電子メディアは子供の脳を破壊するか』金澤治著 講談社文庫 P191 P192

註4         『知られざる万人の病 てんかん』金澤治著 南山堂 P93

註6        同上 P193