断薬は本当に必要だったのか

 娘は15歳の時、最初の病院で「幻聴が聴こえる」と言う理由から「統合失調症」と診断されました。しかし今考えると、娘は幼少期に側頭葉てんかんを起こしたことがあり、それが思春期に再発したために、単にてんかん性の幻聴を聴いていただけの可能性が考えられました。いわゆる発達障害の2次障害です。(註1) にも拘らず長期にわたり、てんかんの治療は何もされないまま、反対に、てんかん既往症患者が服用すると、てんかんを引き起こす可能性の高いジプレキサなどの向精神薬が多量に、6年間も処方され続けました。当然幻聴は治りませんでし た。(註2) 

 

  次の病院では、抗てんかん薬のリボトリールと、てんかんに禁忌(てんかん患 者には絶対に使用してはいけない)とされる炭酸リチウムが同時に出されるとい う、極めて矛盾した処方が約2年半も行われました。そのため、ここでもてんか ん性の幻聴は治りませんでした。

  

 このように精神科医の大半が、発達障害者が抱えるてんかん器質について無知 であるということが、最近になり漸く分かってきました。又は全て分かっていな がら、患者に伝えようとしないお医者様もおられます。近年、講演活動なども行 っている著名な精神科医と話す機会がありましたが、やはりてんかんは専門外で 「キンドリング」という言葉さえ、ご存じありませんでした。こういう現状では、 発達障害者におけるてんかん性の精神症状が、統合失調症と誤診され続けても当然だと思います。

 

  話を戻しますが、今までの経緯を考えると、娘には薬剤性のてんかん発作が長年にわたり起き続けていた可能性が高く、100%の断薬はまだ時期尚早ではなかったのか、と思います。何故ならば、てんかん発作を治すには十分な時間が必 要だからです。(註3)それにも拘らず、減薬でてんかん発作を起こしやすいベンゾ系薬を、なかでも抗てんかん薬のリボトリールをハイペースで抜いてしまっ たことが、更に症状を悪化させたのではないかと思われます。

   

 娘の状態で「100%の断薬が妥当かどうか」、減断薬前に成育歴や治療歴などを鑑みて、てんかん発作についての十分な検討が必要だったのだと思います。指導医からはこの点についての指導は何もありませんでした。内容の信頼性はともかく、以前かかった病院から診療情報提供書も取得されていないと思います。少なくともてんかん既往の娘は、てんかん発作の発現に充分注意する必要があり、最後の最後まで急な減断薬やサウナ治療だけは絶対にすべきではありませんでした。

 

 

 註1) 

①  「自閉症は1~3割の高い確率でてんかんを伴う。...典型的には、思春期に複雑部分発作ない

   しは二次性全般化発作として発症する場合は多い。」 

 

                    『てんかん学ハンドブック』  P227 兼本浩祐 著 医学書院より 

 

②  「自閉症の12~42%がてんかんを合併するといわれる。また、自閉症 のてんかん発症は、幼児 

    期、思春期にピークがあり、多くは25歳まで に発症する。発作型は部分発作(二次性全般化を

    含む)と全般発作(全身 けいれん発作)があるが、前者が多い)

 

『てんかん診療のクリニカルクエスチョン194』 P71

編集松浦雅人 編集協力原恵子より 

 

③ 「てんかんの本態は、脳内神経回路の異常放電です。けいれんや意識消失 は「目に見える」異常放電ですが、異常放電にはもっと微細な、分かりにくいものもあります。例えば側頭葉と言う部位で起こる側頭葉てんかんの場合、爆発性(>怒りっぽく、瞬間湯沸かし器のようになる)迂回性(回りくどい、融通が利かない)などの性格特徴を合わせもったり、 幻覚・妄想などの精神症状を呈する方もあります。」

 

                          ※側頭葉てんかんは部分発作の一つです。

                          下線は私が引きました。

 

                       『横浜院長のひとりごと』横浜ハートクリニック院長

                                      柏 淳 ブログ NO066より

 

④  ASD※ の二次障害が統合失調症の幻覚妄想と非常に類似した症状を呈する ことがある。

    これらの幻覚や妄想は、脅迫観念の延長線上の幻聴(自分の 思考を幻聴と思い込む)もの

    や、トラウマに関連したフラッシュバック 様の幻覚妄想カタトニア症状※、昏迷などを呈するも 

    のまで様々なレベルがある。」      

                            ※ASD(高機能の自閉症スペクトラム)

                            ※カタトニア 緊張病

 

第106回日本精神神経学学会総会『児童精神科医からみた 精神科処方』

SS143 清水 誠 (横浜カメリアホスピタル 児童精神科 ・精神科) より 

※ちなみにカタトニア(緊張病)に関して申せば、娘はしきりに、「自分は 緊張体質だ」「だから友達に自分から話しかけられない」とずっと悩んでいました。誰も教えた訳でもないのに、自分から「緊張体質」という言葉を何度も使っていました。

 

 註2)

 

 ① 「てんかん等の痙攣性疾患 又は これらの既往症のある患者」

                    (痙攣閾値を低下させることがある)とあります。  

                    ジプレキサの『 医薬品添付文書』 慎重投与の6 より 

 

これは以前にてんかん発作を起こしたことがある患者や、てんかん患者が、ジプレキサを飲むと、

てんかんが起こりやすくなりますよ、ということです!

 

殆どの向精神薬について同様のことが言えます。「痙攣閾値を低下させる薬」「痙攣状態、てんかんのある患者に対して「禁忌」と記載のある薬剤」「慎重投与」等で検索すると一覧表が出てきます。是非ご覧ください。それぞれの向精神薬の医薬品添付文書にも記載があります。

 

 

 ②   ASD には薬剤過敏性の体質が存在するため、向精神薬の副作用と して 幻覚妄想などの 

    精神症状が出現し(抗精神病薬だけでなく抗 うつ薬、 抗てんかん薬でもみられる)、それを統

    失調症の症状が 悪化したものと受け取られ、抗精神病薬が上乗せされて、さらに薬 剤性に

    症状が悪化するという悪循環(三次障害)に陥っているケー スもある。」

          第106回日本精神神経学学会総会『児童精神科医からみた 精神科処方』

           SS144  清水 誠 (横浜カメリアホスピタル 児童精神科 ・ 精神科)より 

 

 

 註3) 少々長いのですが、金澤治先生の本から引用致します。

 

   「基本的には、発作が止まれば その後同じ薬の量で最低3年間は飲み続け、それでも発作がな

   く、また脳波も良くなっていれば、その後半年から1年位かけて、 ゆっくり薬を減らし最後に中止

   することができます。なぜ発作が止まってから3 年間も同じように飲み続けなければならないか

   というと、発作が見た目では止まったからと言っても、発作を起こす電気ショートの火種はすぐに

   は消えないからです。火種は抗てんかん薬と言う消火剤を振りかけ徐々に小さくして行き、長い

   時間をかけて消えて行くのです。

 

    ある学者はこのことを説明するために、「火消し壺効果」にたとえて説明しています。これは一

   昔前にあった消し炭を入れる壺の事で、たとえ壺の中に燃えてい る炭を入れてもすぐには火種

   は消えません。蓋をして酸素の供給を止め、しばらく待たなければなりません。あわててすぐに

   中の炭を外へ取り出してしまうと、 いったん消えかかっていた炭はすぐまた赤く燃え上がってし

   まいます。このように、 発作が止まったからといって、すぐに薬を止めてしまうといったん治りか

   けていたてんかんがまた再燃してしまうことになります。」

 

                  『知られざる万人の病 てんかん』 P175 金澤 治著 南山堂