サウナの使用は厳禁

「サウナはてんかんには禁忌です。」(絶対に入ってはいけないということ)。なぜならば、サウナによって血圧や体温が上昇すると、てんかん発作が起こり易くなるからです。

ましてや減薬中で発作を起こしやすい状態にあった娘は、絶対に入ってはいけませんでした。低温サウナといえども、目的は発汗による排毒です。体が温まるまで入らなければ発汗しないので体温の上昇は避けられません。また体内の薬が排出されれば、図らずも減薬の速度が進むことになり、薬剤性過敏体質の娘にとっては、これもてんかん発作の引き金につながりました。

 

  娘はサウナに20分入るのが精一杯でした。辛くていつも椅子にうつ伏して慢をしていました。元々頑張り屋だった娘は必死に耐えていましたが、5日目にとうとう「ぎゃー」と大声で叫びながら、もの凄い形相でサウナから飛び出してきました。その後は体が硬直したまま床にうつ伏せて、どんなに体を揺り動かしても、体が重く固くなって動かなくなってしまいました。頭の中で大きな発作が起き、体が動かせなくなっていたのだと思います。この5日間が娘の脳に与えたダメージは相当大きかったと思います。その時の恐怖と辛さでこれ以降、3か月間、娘はサウナも入浴もシャワーも使えなくなりました。蒸しタオルで頭と体を拭いてやりますが、体に触れられるのでさえ嫌がり、なかなか汚れが取れず、ひどい臭いがしていました

 この反応は明らかに異常でした。減断薬をしていない普通の状態であればむしろ20分間などごく短い時間であり、娘は楽しんで中で音楽を聴いたり、本を読んでいたと思います。しかし、減断薬中のサウナは、脳への凄まじい破壊力がありました。てんかんについて勉強してみて初めて、娘が減薬中にサウナに入る事がいかに危険なことだったかがよくわかりました。減薬専門医が娘に課した減薬プログラムにあったとはいえ、こんなにも恐ろしい、取り返しのつかないことを私は娘に行ってしまったのです。

 

 娘の独語をよく聞いてみると、時々私への恨みを吐き出しています。「出来ないのに無理をさせた、このおばさんが」「この家で惨劇が起きたのよ」「やっていることが頭、悪いからでしょうが。」と怒鳴っています。「このおばさんて、誰のこと?」と訊くと、私を指差します。赤の他人のように言われたことに少なからずショックを受けながらも、「やはりこの子は賢いな、よく物の道理が分かっているな」と感心しました。

 また更に恐ろしいことがありました。このことで熱刺激による発作回路が出来上がってしまったことです。暑い日など、てきめんに易怒性が増し、精神発作が激しくなるのはこのためだと思います。完全に熱や暑さによる「条件発作回路」が出来上がってしまったのだと感じます。サウナでは発汗する際、体の芯まで温まりますので、サウナから出てからも、ほてりがなかなか冷めません。発達障害者に限らず、お年寄りやこどもは体温調整機能が弱い為に体に熱がこもり易く、てんかん発作を起こしやすい状態が続くのではないでしょうか。これを繰り返していると熱や暑さによって簡単にてんかんが起こりやすい体質になってしまうのだと思います。入浴後はいつもうつ伏せ寝になるか、激しく怒っています。猛暑日にはクーラーや扇風機で体を冷やしてやりますが、今度は それがもとで夏バテ気味になります。何をやっても過敏で打たれ弱くなってしまいました

 

 またサウナは娘に閉所恐怖症も与えました。トイレ、歯科のレントゲン室、駅にある証明書写真用のボックスなど、サウナを想起させる小部屋を異常にこわがるようになり 大声を出してパニック状態になります。ですから独りではトイレに行かれず、時間を見計らって同行してやると、扉を開けたまま用を足せることもあります。トイレに行かずうつろな表情で失禁することもあります。

 

 同様の理由で、もちろんてんかんには長風呂もよくなかったのですが、私の不勉強で全くの無警戒でした。むしろ少しでもストレス発散になればと長風呂を許していました。しかし長風呂は精神発作を誘発し、正気が失われてさまざまな症状をおこしているようでした。前述したように、湯船の中で排尿したり、食べたものを吐き出したり、大声で「ギャーギャー」叫びながらバシャバシャと激しくお湯を叩いていました。減薬専門医のところで課されたビタミン剤などのサプリメントも沢山飲んでいたので、お風呂が猛烈なビタミン臭になり、後で入る者は頭がクラクラするほどでした。(これは高価なビタミン風呂だから、きっと美肌効果もあるだろう。)と思うようにして、口呼吸しながら我慢して入っていました。娘は日に何度もお風呂に入るので、其のたびにお湯を取り換えてもいられず、仕方なくそのまま入っていました。

 まさか発作が起きているとは思いもよらず、「大好きだったプールの代わりになるならば」と大目に見ていた私は大馬鹿でした。勿論心配になって減薬専門医である主治医にも相談したのですが、「どうしてなんだろうね」との返答だけで、てんかんのことは何も注意がありませんでした。